Worry Cake 03

ザッハ・トルテ

 バスから降りて、南へと向かう。センター街を横切り、海の出るまで真っすぐ進む。海に出て左折をすると白い建物が目に入る。そこが川田杏子(きょうこ)の目指すところだ。ホテルの自動ドアに着き、今日の団体予約客の名前が書かれている看板を見る。その中には『県立霧川高等学校 第五十三回生同窓会様』と書かれている。その看板を見て杏子は自然と笑みを浮かべていた。今日は三十年ぶりに高校生のときの友人たちに会えるのだ。杏子は軽い足取りでホテルの中に入った。
 同窓会の会場になっている部屋に入ると、すでに大勢の同級生が集まっていた。白いテーブルクロスが敷かれた長テーブルはあちこちに設置されていて、色とりどりの料理が並べられていた。すでに来ている同級生はいくつものグループに分かれている。きょろきょろ、と見渡していると部屋の真ん中あたりから「きょーうこー!」と呼びながら手を大きく振っている女性がいた。ずいぶんと会っていなかったが、高校のときに仲の良かった友人だった。杏子は手を振り返しながら、友人グループの元に向かった。互いに皺ができ、若い頃とは違ったが、話をするとすぐに高校生当時に戻ったような錯覚に陥った。しばらく喋っていると男の声がした。
「あれ、川田?」
 名前を呼ばれた杏子が振り向くとそこには、自分と同じように年を取ったクラスメイトたちがいた。白髪頭の者もいれば毛が薄くなってしまっている者のほか太ってしまっている者もいる。
「俺だよ。山田」
「え、山田君?」
「うわ。山田太ったしハゲた」
「お前も皺増えたじゃないか」
 杏子の友人が山田という男性に向かって言った。山田と呼ばれた男も言い返す。昔の面影もなくなってしまった者もいたが、すぐにまた高校時代に戻る。当時はあまり話せなかったクラスメイトとも話していた。しばらくすると山田が入口のほうに向かって手を振っていた。一人の男が近づいてくる。すらっ、と細身で染めているのか髪は黒い。
「よお。大木」
 大木と呼ばれた男は静かに「よお」とあいさつをした。杏子は胸が高鳴るのを感じた。当時の面影が残しながらも年齢を重ねてきた大木は、杏子が高校生のころに憧れてやまない人物だったのだ。
「大木君、相変わらずかっこいいわねー」
「ねー」
「おいおい、俺はどうなんだよ?」
 クラスメイトが話に花を咲かせる中、杏子は大木をちらちら、と見ていた。友人と話すときの大木の笑顔は変わっていなかった。あのころの、休み時間に仲の良い者と楽しそうに話す姿と。あの、自分が恋心を抱いていたころと。
「私なにか料理取ってくる」
 杏子はこれ以上いると、恋心が完全に戻ってくる気がして一度その場を離れようとした。
「俺も料理取りに行こうかな」
 大木もそう言って杏子に着いて行った。杏子は心臓の鼓動が速くなるのがわかった。杏子は今まで恋愛をしてこなかったわけではない。人並みに恋愛もしてきた。婚約寸前まで付き合った男もいる。
「川田」
「な、なに?」
 杏子はなるべく平静を装い、返事をした。
「なんか不思議だよな。高校のときはあんまりしゃべったことなかったのに、こういう同窓会だとしゃべるって」
「そうね」
 料理を小皿に盛っているときも、杏子は隣にいる大木のことが気になって仕方なかった。ちらり、と左手を見る。薬指にはきらり、と銀色の指輪が光っている。ずきり、と鈍く胸が痛む。杏子は自分の気持ちが表情に出ないように気をつけながら、料理を盛った皿を持ち友人たちのところに戻った。友人たちは思い出話に花を咲かせていた。
「あ、帰ってきた」
「ねえねえ聞いてよー。さっきさあ……」
「言わなくていいよー!」
 ふと、一瞬友人たちが制服を着た高校生に見えた。やり取りがあまりにも変わっていなかったからだろう。自然と口元に笑みがこぼれる。そんな懐かしいやり取りは同窓会が終わるまで続いた。

 同窓会が終了しぞろぞろ、と皆が会場から出て行く中熱が冷めていないのか、二次会に行く者が多かった。声をかけてきた杏子の友人もその中の一人だった。
「ねえ、杏子ー。二次会行こうよー。皆行くってー」
「ごめん、明日早いから……」
 杏子はそう言ってバス停へと向かった。本当は特に用はなかったのだが、これ以上皆といるとあの頃の恋心が再び顔を出してきそうだったのだ。あの、卒業とともに閉じ込めた恋心が。そんなことを考えながら歩いていると、肩をぽんぽん、と叩かれた。振り返った杏子は、自分の中からごとり、となにか、例えるならば重い蓋がスライドして開けられるような音が聞こえた気がした。肩を叩いたのは、大木だった。
「川田も帰るのか?」
「う、うん。明日朝早いから」
 二人は自然な流れで、横に並んで歩くことになった。
「大木君は二次会行かないの?」
「おう」
 杏子の問いに答える大木は幸せそうだった。その幸せそうな顔に杏子は魅力を感じながらも、胸がずきり、と痛んだ。
「ねえ、大木君」
「ん?」
 杏子は『こう』すれば自分がつらくなることをわかっていながら、抑えることができなかった。
「メールアドレス、交換してもいい?」

 あの同窓会から、二カ月が経った。今はずいぶんと涼しくなり、過ごしやすい季節になった。外に出るのには今の杏子の格好のように薄手のカーディガンで十分である。 大木とメールアドレスを交換してから、何度かメールをした。高校生のころは同じクラスという接点しかなかったが、今はメールだが会話をしている。あの頃できなかったことが、今できているのだ。メールが来るだけで、年甲斐もなく喜んだ。本当に高校生に戻ったようだった。
 しかし、時間は流れた。自分は独身でも、大木には家庭がある。子供も二人いて、上の子は全寮制の高校に入学し、下の子は来年高校受験らしい。夫婦関係も円満で、近所でも評判のおしどり夫婦という話もメールで言っていた。大木とのメールはなんということもないことで、家庭の話が多かった。そんな幸せに過ごしている家族の内容のメールが送られるたびに、高校生のときに告白しておけばよかった、と後悔する。そして、そう思うと必ず別の自分がひょっこり、と顔を出す。
 まだ、遅くはない。今からでも自分の思いを伝えて、あの頃夢にまで見た日々を過ごせる、と。
 そんなことできるはずがない。わかっている。人はどうか知らないが、自分の思いを勢いや情熱だけで伝えることができるのは、社会に出るまでだと杏子は考えている。杏子はこれまで人並みに恋愛をしてきたつもりである。もうすぐ五十代であるが未婚の独身とはいえ、結婚寸前まで付き合った男性もいる。大木のことを引きずってきたこともない。けれど、こんなにも激しい思いを抱いたことはなかった。
 そんな風に考えながら町を歩いていた杏子はふと、違和感に気が付いた。立ち止まって、右側の店を見た。そこにはカフェが建っていた。しかし、そこは更地だったはずだ。目の前のカフェを建設していた様子も先日まではなかった。だが、カフェはもう何年も前からそこにあるような空気を醸し出している。最初はそういうイメージの店なのかと思ったが、壁の不愉快にならない程度に黄ばみ、元はこげ茶色だったとも思われるが日光で薄くなった窓枠の木も色も自然とそうなったものであることが見れば見るほどわかる。杏子は矛盾に頭を悩ませた。
「店内に入ればわかるかしら?」
 杏子はカフェに入ってみることにした。それが、自分の意思であるような気がしても本当は違うことに気が付かずに。

「いらっしゃいませ」
 杏子は店内を見渡した。オレンジ色の柔らかく落ち着いた照明に、大勢は入ることはできないが、独りでゆっくり過ごすには心地いい広さだ。ジャズが穏やかに流れていて、カウンターの中にはマスターらしき男、カウンター席には白いワンピースを着た一人の少女が絵本を読んでいる。少女が読んでいる絵本に目が入った。その絵本の表紙にはお菓子の家と少年が柔らかいタッチで描かれている。一見グリム童話のヘンゼルとグレーテルのように思えるが、グレーテルらしき少女が描かれていない。よく見ると、絵本には題名が書かれていなかった。
「お客様、こちらへどうぞ」
 杏子がどこに座ろうとしているのか迷っているように見えたのだろうか、マスターらしき男は杏子にカウンター席を勧めてきた。断る理由もないので、杏子は少女からひとつ空けた隣の席に座る。ちらり、と少女を見た。少女の髪は真っすぐな栗色だ。肌は白く、全体的にやせ気味で、前髪をキャンディの形の飾りが付いたヘアピンで止めている。年齢は十二歳くらいだろうか。杏子にもこれくらいの子がいてもおかしくはないはずだ。
「こちらがメニューでございます」
 マスターはそう言って杏子にメニューを渡した。杏子はそれを受け取り、見た。その中からケーキセットを注文することにした。
「すみません。ケーキセットお願いします」
「どのケーキになさいますか?」
 杏子はセットのケーキの一覧を見て少し悩んだ。
「ザッハ・トルテで」
「かしこまりました。お飲み物はどうされますか?」
「ホットコーヒーで」
「かしこまりました」
 マスターはケーキとコーヒーの準備を始めた。杏子は少女に話しかけた。
「なにを読んでいるの?」
「……お菓子の家の話」
 少女は答えた。その声に感情はこもっていない。
「ヘンゼルとグレーテル?お菓子の家って憧れるわ……」
「違う」
 少女は言った。それが最初のやりとりからは想像できないほどの強い否定だったため、杏子は少し驚いた。
「こら。お客様にそんな風に言ってはいけないだろう?」
 マスターが手を動かしながら少女をたしなめた。少女は頬を膨らませた。
「すみません、お客様」
「いえいえ、大丈夫ですよ。ごめんなさいね」
 少女は視線を絵本にむけたまま首を縦に振った。マスターはコーヒーをカップに注ぎ始めた。コポポポ、と音がする。淹れ終えると、マスターはフォークと共にザッハ・トルテを杏子の目の前に置いたあとにコーヒーとミルクピッチャーや角砂糖をザッハ・トルテのそばに置いた。
「ザッハ・トルテとセットのコーヒーでございます」
「いただきます」
 杏子はザッハ・トルテをフォークですくい、口に運ぶ。控え目な甘さながらも濃厚なチョコレートの味と、挟んであるあんずのジャムが口いっぱいに広がる。
 ザッハ・トルテを半分くらい食べたところに、マスターが杏子に声をかけた。
「お客様、恋をしていらっしゃいますね?」
「え?」
 杏子は驚いた。
「この店には悩みを抱えているお客様がたくさんいらっしゃいます。もちろん、恋の悩みを抱えたお客様も」
 マスターは柔らかく微笑みを浮かべて言った。その微笑みは人の警戒を解き、心の底から安心させるものだった。
「よかったら、話していただけませんか?話すだけで気が楽になりますよ」
 杏子は一瞬どうしようか迷った。が、すぐに相談しようと思った。なぜかこのマスターに話せば解決策が見つかるような気がしたのだ。

 こんなおばさんの私にも、高校生だった頃があったのよ。私は三年生のときに同じクラスの男子が好きになったの。大木君って言ってね。その子は背が高くて同級生の中では落ち着きのあるタイプで、しっかり者だった。それに顔もかっこよかったから女子に人気だったの。いろんな女子が彼に告白していたわ。……私?告白なんてする勇気はなかったわ。友達にすらなれなかったしね。同じクラスっていうだけ。それに、私よりもかわいい女子や性格のいい女子が振られているんだもの。彼と付き合ってもらえるはずがない。そう思っていたわ。だから、大木君には好きだっていうことを伝えずに卒業した。
 それから三十年、私は何人かの男性と付き合ってきた。婚約をした男性もいたわ。……破棄になってしまったけれどね。だから、まだ独身。……この年齢で未婚で独身って、あんまりいい印象を持たない人もいるし両親も心配するんだけれどね。
 この間、といっても二カ月ほど前なんだけれど、高校の同窓会があったの。皆いろいろ変わっていたわ。男子に人気だった女子が太っていたり、女子に人気だった男子が禿げてきていたり、逆に高校生のとき地味だった人が魅力的になっていたり。……けれどね、変わっていない人もいたのよ。大木君がそうだったわ。そりゃ年をとったらから白髪混じりの頭にはなっていたけれど禿げてなかったしね。うふふふ。……太ってもいなかったし、落ち着きもあったし、性格も変わっていなくて、かっこよかった。心臓が、高鳴ったわ。どきどきして、まるで高校生の頃に戻ったかのような気分だったわ。……あのときの、大木君が好きだった気持ちも思い出した。すごく好きだった。すごく、すごく……。できるなら、この思いを伝えたかった。けれど、もうだめだった……。彼にはもう家族がいるんだもの……。同窓会の日から二カ月経った今でも、すごく好きなの……。

 カチャンッ、と食器同士がぶつかる音がした。マスターがどうやら杏子の話を聞きながらティーカップを磨いていたようだ。杏子は一瞬マスターが自分の話を聞いていたかどうか不安になったが、マスターは真っすぐ杏子を見て言った。
「恋というものは永遠には続けることはできないと言います。結婚や別れ、気持ちが冷めることなど、なんであれ終わりが来ます。……いいのですか?」
「え……?」
「今のまま……自分の想いを伝えないままならば、苦しみも心のときめきも含めて『恋』のままです。確かに苦しみはありますが、相手のことを想うことで幸福なときを得ることができます。しかし、想いを相手に伝え付き合うとなれば様々な障害も出てきます。価値観の相違やスケジュールはもちろん、お客様の場合は相手の方のご家族。相手の方はご家族を大事になさるでしょう。お客様が描いているような逢瀬もできないでしょう。誰にも共感されない苦しみ、様々な人から蔑まされることもあるでしょう。  自分以外の人間に、予想もできない傷を負わせることになったとしても、あなたはいいのですか?」
 マスターの表情は真剣だった。しかしすぐに、申し訳なさそうに杏子に言った。
「すみません。こんな若造が……」
「あ、い、いえ。ありがとう。
 当然よね、私の望みは人から見れば決して褒められたものではないもの」
 カチャン、と小さく音がする。杏子がコーヒーを飲んだのだ。マスターは杏子がコーヒーカップを置いてから、呟くように言った。

「けれど、欲望に勝てる人間は意外と少ないのですよ」

 マスターのその言葉は、店内に流れるジャズにかき消されることなく、杏子に聞こえていた。

 杏子が店を去った後、マスターは指を鳴らし、杏子の悩みを結晶化させた。虹色に輝くその結晶の形はどこかハートに見える。その結晶をマスターはうっとり、と眺めていた。時折光に透かす。
「他人の大切なものを奪うには、覚悟、なんて甘いものだけでは足りない。命だけでなく、死んでからも唾を吐かれ、罵られ、バラバラに引き裂かれても文句は言えない。そして、奪った者は必ず罰を受ける。多くの人はその罰の存在を認識しているけれど、自分は受けないと勘違いしている。そんな生き物はいないのに。……まあ、そんな勘違いも含めて結晶が作られているんだけれどね」
 満足したのか、マスターはいつものように瓶に結晶を入れ、後ろの棚に飾った。
 そして少女に話しかけた。
「ザッハ・トルテの起源を知っているかい?」
 少女は顔を上げ、絵本を開いたまま置いてから、首を横に振った。マスターは、語りだした。
「ドイツのフランツ・ザッハーという男が十六歳のときに考えたもので、チョコレート味のバターケーキに、あんずのジャムを塗り、そのあとに溶かしたチョコレートでコーティングしたケーキなんだ。トルテ、とはお菓子という意味だよ。ザッハ・トルテは次の日には都市で話題になった。
 ザッハーが年をとり、結婚して子供ができると、彼の子供がホテルを開いた。そのホテルのレストランやカフェでザッハ・トルテは出されるようになった。ザッハ・トルテのレシピは誰も知らない秘密だった。
 ザッハーが亡くなって、ホテルのオーナーが三代目になったときに、ホテルの経営がうまくいかなくなった。そこでお金を手に入れるために、別のケーキ屋にレシピを売ったんだ。これで、サッハ・トルテの秘密のレシピを知っているのはホテルと、ケーキ屋の二か所になった」
 少女はマスターに訊ねた。
「けど、今マスターはどういうケーキが言ったよね。秘密のレシピなのに、なんで知っているの?」
 マスターはくすり、と笑って「よく気がついたね」と少女を褒めると、続きを説明し始めた。
「ある日、その秘密のレシピが本に載ってしまったんだ。ザッハ・トルテのレシピは、秘密であったことと、ザッハ・トルテというケーキが人気であったからお金を払う値打ちがあったんだ。それに、ザッハ・トルテが他のケーキ屋やホテルでも作られるようになればホテルには客が来なくなる。だから、ホテルはケーキ屋を訴えたんだ。もし、レシピが漏れるとすれば、レシピを売ったケーキ屋からだろうからね。訴えた内容は二つ。一つは、ザッハ・トルテを売らないこと。もう一つはザッハ・トルテという『名前』を使わないこと」
「名前……?」
「実はね、ホテルが作っていたザッハ・トルテと、レピシを買ったケーキ屋が作っていたザッハ・トルテには、一つ違いがあったんだ」
「違い?」
 少女は首を傾げた。
「そう。その違いは、あんずジャムなんだよ。
 ホテルが出していたザッハ・トルテはあんずジャムを中にも『挟んで』いた。けれど、ケーキ屋のザッハ・トルテはあんずジャムを『表面にだけ塗って』いたんだ。だから、ケーキ屋のザッハ・トルテは正確に言うとザッハ・トルテではないんだよ、ホテル側からすればね……。だから、ホテル側はケーキ屋のザッハ・トルテをザッハ・トルテという『名前』を使わず、別の名前のケーキにするように言った。けれど、ケーキ屋も自分たちの作ったザッハ・トルテもザッハ・トルテだって思っている。結局裁判は七年も続いたんだ」
「長いね。どうなったの?」
「……結果はケーキ屋のザッハ・トルテもザッハ・トルテと認められたんだ。……ホテル側からすれば負けた、ということになるね」
「ねえマスター」
 少女は説明を終えたマスターに訊ねた。
「あのお客さんには、どっちのザッハ・トルテを出したの?」
 マスターは、にやり、と笑って答えた。
「あんずジャムを中にも『挟んで』いる、ホテル側が出していたザッハ・トルテだよ」
「じゃあ、あのお客さんはさっき話したホテルみたいになるの?」
 マスターは少女を見る。
「ああ。……結局彼女は、好きな人にとって全てを捨ててでも共にいたい、という存在にはなれないだろうね。ザッハ・トルテみたいに長い間もめるだろう。……きっともっとひどいことが彼女には起こるよ。他人の大切なものを奪うと、罰が下されるんだ。
 ……けれど、その罰がどれだけ辛いものであるとわかっていても求めてしまうものなんだ」
「マスターも、罰が厳しくてもほしかったら手に入れる?」
 少女のその問いに、マスターは一瞬表情が消えた。が、すぐにいつものように笑みを浮かべ、少女の頭をなでた。
「ああ、手に入れるよ。この命と体がどうなろうともね」