あけみの薬屋 02

ひなた村での夏 (1)

 ナツのケガの手当てをしてからしばらくして、梅雨に入りました。ひなた村に来て半年になります。

「何かすることあるかしら……」

あけみは窓の外を眺めて呟きました。今日も雨が降っています。

「なにか作っておく薬はないのか?」

使い魔のシューは軽やかに窓辺に跳び乗りました。あけみはシューを見て言いました。

「もう作っちゃったわ。これ以上作ったら腐らせるだけだもの」

あけみは頬杖をつきました。何をするか考えています。シューも外を眺めながら一緒に考えました。

「あ、あけみ。あれを育てたらどうだ?」
「あれって?」

 あけみは首をかしげました。シューはため息をついて言いました。

「師匠がくれた魔法のヒヤシンスの球根があっただろ?」
「ああ、そうね!それじゃあ栽培用のポットを用意しなくっちゃ」

 ヒヤシンスは本来春先の花ですが、魔法のヒヤシンスは梅雨の雨水でしか栽培できないヒヤシンスで葉や根は薬に、花はハーブティーに使える魔女にしか扱えない薬草の一つです。魔女にしか扱えない薬草の中には、本来の季節とずれたものがあります。
 あけみは水栽培用のとっくりの形をしたポットを持ってきました。それを外に置いて水がたまるのを待ちます。水がたまったら、球根をポットに置いて一番魔女の力があって暗いところに置きます。あけみはキッチンの、薬草の入った瓶や缶を収めている棚に置きました。

「これで根が出てくるまで待っておくだけね」
「ちゃんと毎日水変えなくちゃだめだぞ。念のために雨水はためておいたほうがいいんじゃないのか?」

 居間のイスに腰を下ろしたあけみにシューが言いました。あけみは最初めんどうくさがりましたが、いくら梅雨でも雨が降らない日もあるので花瓶に水をためておくことにしました。

「次は何をしようかしら……」

 あけみは腕を組んで考えました。

「んー……もうすぐ夏よねえ。何か夏に向けて新しいハーブティーか薬を作ってみようかしら」

 あけみはキッチンに向かいました。戸棚を開けて缶や瓶を見ました。

「んー……。夏。夏といえば暑い。……飲んだら涼しくなるハーブティーとか?」

 あけみは戸棚からいくつか缶を取り出しました。その缶にはそれぞれ『冬風草』、『ミント』、『メリッサ』、『マリーゴールド』、『そよ風の花』、『千年樹りんごのドライチップ』、『オレンジピール』と書かれていました。缶をずらり、と並べて腕を腰のあたりに当てて考えました。

「涼しくなるには冬風草は欠かせないでしょー?それから飲んださわやかさはメリッサ……それとも、そよ風の花?ミント?うーん……」  あけみは冬風草を中心に何種類か組み合わせを考えてみることにしました。紙とペンを持ってきて相性のよさそうな組み合わせを書きだしました。


1冬風草+メリッサ+オレンジピール
2冬風草+メリッサ+マリーゴールド+そよ風草
3冬風草+千年樹りんごのドライチップ+そよ風の花
4冬風草+オレンジピール+そよ風草+マリーゴールド
5冬風草+マリーゴールド+オレンジピール+ミント+メリッサ


「うーん……このくらいかしら?」

 あけみは実際に組み合わせてみることにしました。冬風草は入れすぎると体を冷やしすぎてしまうので、量に気をつけて組み合わせました。
 組み合わせが終わると、実際に淹れてみることにしました。アイスティーにすることにしました。アイスティーを淹れるときのように、いつも淹れるときに比べてお湯の量を半分にして淹れます。冬風草は氷がなくてもひんやりし、しかし体は冷やしすぎない程度混ぜたので、氷がなくても冷たいのです。
 まずは①のハーブティーを淹れました。オレンジピールの甘みが十分引き出されていない気がしました。しかし、飲み終わったあとのさわやかさはありました。
 次々②から⑤まで順に飲んでいきました。そよ風草が入ったものはさわやかだけれど優しく、ミントが入ったものは冴えわたるすっきりさがありました。どちらも違ったさわやかさがあるため、あけみはそよ風草を混ぜたものとミントを混ぜたもの二種類を作ることにしました。

「うーん……。②は少し飲みにくいかなぁ。③はあまくていいけれど、あと一種類入れたいわね。④はさわやかで飲みやすいわね。⑤はスキッ、としてさわやかだし飲みやすいわ」

 あけみは腕を組んで考え、決めました。

「よし、③と⑤にしようっと。③はほかに何か混ぜようかしら」

 あけみは棚から新たに缶を取り出し、いろいろ混ぜて、飲んでみました。おいしかったものもいまいちのものもありましたが、一番おいしかったものはオレンジピールを混ぜたものでした。あけみはハーブの分量を細かくメモしました。

「よし、今度えりかが来たらお試しで飲んでもらおうっと」

 あけみは鼻歌を歌いながら缶やポットなどを片付け始めたとき、シューがやってきました。

「あけみ、えりかが来たよ」
「あら、ちょうどいいわ。さっきのハーブティー、飲んでもらおうっと」

 あけみはシューにえりかの相手を頼むと、さっきの二種類のハーブティーをアイスで淹れました。お茶受けとしてこのあいだ作ったスコーンも持って行きました。
 居間に行くとえりかは膝の上でシューの体をなでていました。

「いらっしゃい、えりか」
「おじゃましてまーす。雨だけど学校も休みだから来ちゃった。それにしてもシューくんって大人しいのね」
「シューが大人しい?……猫をかぶっているわね、シュー。普段私には口うるさくあれこれ言うのよ」

 シューはぷいっ、と視線をそらしました。

「俺は元々猫だ。それにそのあれこれ言ったことに助けられているのはあけみじゃないか」

 事実なのであけみは何も言い返せませんでした。

「まあまあ、二人とも。  あけみ、今日のハーブティーは二種類あるのね」
「ええ、夏に向けて新しい組み合わせを考えたの。それでえりか試しに飲んでもらいたいの。飲んだら涼しくなるハーブティーよ」

 あけみはえりかに二つのグラスを差し出しました。えりかはまず、どちらのハーブティーも一口ずつ飲みました。

「どう?」
「両方おいしいっ。それに本当に少し涼しくなったわ。夏にぴったりね」
「飲みにくかったりしない?」
「うん、大丈夫」

 二人はスコーンを食べながら、えりかの学校の話やあけみとナツとの出会いなど話しました。

「その雫の花は摘んでから、しばらくきれいな水に生けておくと全体に花の甘い蜜が行き渡るの。だから葉や茎も甘くなるのよ」
「へえ、そんな花もあるのね。でもどう珍しいの?」

 今テーブルの上には飲み終えたグラスとスコーンのほかに花瓶に生けた雫の花がありました。あけみは雫の花について話しました。

「雫の花は五十年に一度、妖精と魔女しか知らない湖の水面に満月が写ったときにしか咲かないの。だから、曇っていたり雨で水面に満月が写らなかったりして、百年以上咲かないときもあるの」
「ひゃ、百年以上?それは確かに珍しいわね。どんな風に咲くの?」

 あけみは本に描かれていた雫の花を思い出しながら説明しました。

「あじさいみたいにかたまって咲くの。けれど、一輪一輪に茎と根っこがあるの。  本当は本に描かれてあるんだけれど、魔女以外に見せてはいけないの。ごめんね」
「いいよ、いいよ。  魔女の本って普通の人は見ちゃいけないの?」
「魔女にしか扱えないものを普通の人が扱おうとしたら、妖精や精霊が怒って災いが起こるからな。妖精や精霊と魔女のものは強くつながっているから」

 今まで会話に参加していなかったシューが言いました。

「それにあけみ。あんまり魔女のことを言わないほうがいい。妖精や精霊は自分のことをあまり知られたくないやつが多いんだぞ」
「あ、そうだったわ」

あけみはひなた村に来て友達ができたことがうれしくて、ついいろんなことを話していました。話していいこといけないことを判断できるのも魔女に必要な資格なのです。資格がなければ魔女をやめなければなりません。あけみは気をつけよう、と思いました。
そのあともいろいろおしゃべりをしましたが、話してはいけないことは話さないように気をつけました。ふと、えりかが時計を見ると五時になっていました。

「あ、そろそろ帰るね。今度は今日のハーブティーを買いにくるわね」
「ありがとう、気をつけてね」

 あけみはえりかを見送りました。見送ってからあけみは寝室の本棚からふるそうな茶色の本を取ってきて居間のイスに座り、本を読み始めました。
 まだ降る梅雨の雨の音が心地よく響いていました。

 今日もしとしと、と雨が降っています。水栽培している魔法のヒヤシンスは根っこがでてきました。
あけみは今日雫の花の葉を摘んでいました。
 そのとき、扉が開きました。

「こんにちは、魔女のあけみさん」
「あ!ナツじゃない。こんにちは。ケガは大丈夫?」

 ナツが手を叩くと、彼が持っていたハスの葉の傘が消えました。

「うん、もう平気だよ。ねんざも治ったし。  今日はお茶を買いに来たんだ。けれど、俺お茶の淹れかたなんてわかんないから、一緒に飲みたいんだけど、いい?」
「もちろん。それじゃあせっかくだから、このあいだナツがくれた雫の花のお茶でもどう?」
「じゃあそれで。あの花ってお茶にもなるの?」
「ええ。葉っぱにもそろそろ蜜が行き渡っているころだから、甘くておいしいお茶になるわ。ちょっと待ってね、淹れてくるから」

 あけみは雫の花を花瓶から取り出し、キッチンへ持って行きました。
 あけみは小さな鍋でお湯を沸かしているあいだに、花から葉を取りました。その葉を細かく千切ってティーポットに入れます。お湯が沸くと、そのティーポットにお湯を注ぎ蒸らします。そのあいだにグラスを用意し、アイスティーの準備をします。蒸らし終えてから雫の花のお茶を注ぎます。グラス二つとはちみつをトレイに乗せ、居間に運びました。

「おまたせ。甘いとは思うけれど、一応はちみつも持ってきたわ」

 あけみはイスに腰を下ろしました。

「ありがとう、いただきます」

 ナツはお茶を一口飲みました。

「へえ、あの花ってこんなにおいしいお茶になるんだ。甘くて飲みやすいし」

 あけみもお茶を一口飲みました。口にはちみつのような甘さが広がります。

「本当、甘くておいしい。はちみつはいらなかったわね。 実は私もこのお茶初めて飲んだの。本にはしばらくきれいな水に生けておくと蜜が茎や葉にも行き渡って甘くなって薬と一緒に使えるしお茶にもなるって書いていたの。それで淹れてみたんだけど……」
「うん、おいしいよ。だったらもっとあの花もらっておけばよかったなぁ。そうしたらもっとお茶も飲めただろうしなぁ」

 ナツはグラスを傾けながら言いました。その顔には惜しいことをした、と書かれていました。

「あれってもらったものだったの?」

 誰かからもらったものをお代としてもらったことを、あけみは知らない相手に申し訳なく思いました。それに気づいたのかナツは言いました。

「ん?ああ、気にしないで。親しい水の妖精がいらないからってくれたものだったんだ。  あ、ねえあけみ。植物に対する薬とかある?」
「植物に対する薬ってどういうもの?」
「実は一本の樹が弱っているみたいなんだ。確かに長生きしているから寿命といえばそれまでなんだけれど、見ていられなくってさ。一応見てみたんだけれど傷とかはないみたい」

 あけみは言いました。

「植物を元気にする薬ならあるわよ。ただ、今数が少ないの。すぐできるから今から作りましょうか?」
「いや、俺たち季節の精霊は弱っている動物や植物に手を出してはいけないっていうきまりがあるんだ。だから、俺はあの樹になにもできない」
「それじゃあ、私がその樹に薬をあげればいいのね」
「お店もあるし悪いからこのあいだのリスさんに薬を取りに来てもらうよ。なるべく早いほうがいいんだ」
「なら明日リスさんに取りに来てもらっていい?」
「うん、わかった」

 ナツはもう一口アイスティーを飲みました。

「あ。そういえばクッキーがあったことを忘れていたわ。持ってくるわね」

 あけみはふと、思い出してキッチンからクッキーが入った小さなカゴを持って戻ってきました。バニラ味のクッキーです。クッキーを食べてアイスティーを飲みながら二人はいろいろ話を始めました。  話題が季節の精霊についての話になったとき、あけみはほかの季節の精霊についても尋ねました。

「ほかの季節の精霊ってどんな人たちなの?」

 ナツは腕を組んで首をかしげて「うーん」とどんな人か思い出しながら話しました。

「春の精霊はお姉さんみたいな感じで優しい人かな。俺たちだけじゃなくって動物や植物、それに人間にだって優しいんだ。それに俺たちの中で一番しっかりしているよ。力の調節も一番うまいんだ。
 秋の精霊は元気なやつだよ。くいしんぼうだし、おいしい木の実やきのこをよく知っているよ。あと、料理が得意で俺たちもよくごちそうになるんだ。あ、それに薬草についても詳しいよ。
 冬の精霊は人見知り。仲良くなったらよくしゃべるんだけれど、それまではあんまりしゃべらなかったな。それから力の調節が少し苦手みたいなんだ。一生懸命なんだけどさ」

 あけみはそれを聞いてナツ以外の季節の精霊にも会ってみたいと思いました。精霊は妖精とちがって会うことは難しいのですが、なんだか会えるような気がしています。

「ねえ、ナツはいろんなところを夏にするんでしょう?どんなところに行ったの?」
「いろいろ行ったよ。この村みたいにおだやかなところや、海のあるところ、砂漠にも行くよ」
「すごい!」
 あけみは修行で海辺に行ったことはありますが、砂漠は行ったことがありませんでした。あけみはナツに砂漠の様子を聞きました。話はどれもあけみにとって珍しい話ばかりでした。そんな話をしているときにふと、思ったことを尋ねました。それはいつ季節の精霊は会っているのか、ということです。季節の精霊はあちこちを旅しているからです。ナツは説明しました。

「それぞれの季節によって行かないところもあって次の場所に行くまでの間、そこにいるんだ。そのときにほかの季節の精霊と会うことがあるんだ」

 あけみの師匠の持っていた本でも季節の精霊のことは、四人いるとか彼らが旅をしているおかげで季節がやってくるということしか書かれていなかったので、あけみにとって今日のナツの話は驚くことがたくさんありました。
 どれくらい話したのでしょう。時計の針は六時を指していました。

「おっと、ずいぶんとおじゃましちゃったね。そろそろおいとまするよ」

 ナツは腰を上げました。そして手をぱんっ、と叩きました。現れたのは水が入ったふたが金属の丸い瓶でした。

「これ、お茶のお代。ありがとう」
「これは……?」

 あけみは瓶の中を見ました。よく見ると中の水にはとある村らしき景色がゆらゆら、と映っていました。

「それは『夏の水』っていって夏の日の気候と風景を閉じ込めた水なんだ。その水を使えば量次第では冬を夏に変えることもできるんだ。まあ、ほとんど使い道はないから観賞用かな」

 言われてみると確かに映っている太陽はギラギラ、と照らしているし、瓶もほのかに温かいのです。

「こんなのでいいかな?本当はお金のほうがいいんだろうけれど……」
「ううん!すごくきれい」
「ならよかった」

 あけみはナツを玄関まで見送りました。ナツは宙に浮いてから手を振って、飛んで行きました。
 あけみはさっきまで座っていたイスにまた腰を下ろしました。そしてテーブルに置いてある夏の水をしばらく眺めていました。

 次の日、リスがナツの言っていた薬を取りに来ました。お代として薬草の束をあけみに渡すと帰りました。
 その後、キッチンで魔法のヒヤシンスの手入れをしているとシューがやってきました。

「あけみ、お客さんだぞ」
「ありがとう」

 あけみは根っこがちぎれないように慎重に球根を元の位置に置き、受付を兼ねている居間へと向かいました。
 お客さんは以前寝付きが悪いからとハーブティーを出した女性でした。

「いらっしゃいませっ」
「こんにちは」
「今日はどんなお薬をお求めですか?」

 あけみは笑顔で女性に尋ねました。

「前と同じ眠れるハーブティーをくださいな、魔女さん。
 あのお茶を飲むとぐっすり眠れて、起きるととても幸せな気分になれたわ。ここのところ忙しかったから、なかなかお店に来られなかったの」

 あけみは自分の作ったハーブティーをお客さんにそんな風にほめてもらったことがなかったので、うれしい気持ちと恥ずかしい気持ちが混ざり、なにも言えませんでした。

「しばらく忙しいのが続きそうだから、そうね……一か月分って大丈夫?」
「あ、はいっ。大丈夫です。ちょっと待ってくださいね」

 あけみはキッチンに向かいました。棚から『安眠(カモミール・ラベンダー・夢見草・朝つゆの花)』と書かれた缶――以前と同じもの――を取り出し、一か月分を袋に入れました。

「おまたせしました。淹れ方の紙はどうします?」
「いいえ、家にあるから大丈夫よ。お代はいくらかしら?」

 女性はにこり、と柔らかく微笑んで、あけみが言ったお代を払いました。

「あの、忙しいってなんの仕事しているんですか?」

 あけみは少し気になったので尋ねてみました。

「私、小物を作っているの。蔓や木の枝でカゴを編んだりするけど、ビーズでアクセサリーを作ってお店で売っているの。あと、町にいる友達のお店で売ってもらっているの。
 今ちょうどその友達からいくつか注文がきているんだけれど、ひとつひとつ作るのに時間がかかるから大変」

 しかし、そう言う女性は笑顔でした。あけみはこの人は本当に仕事が好きなんだな、と思いました。あけみは女性を玄関まで見送りました。

 女性と入れ違いで今度は、ふきおばあさんが中に入って行きました。ふきおばあさんはよくハーブティーを買いにくるおばあさんです。

「あ、ふきおばあさん。いらっしゃいませ」
「こんにちは、あけみちゃん」

 ふきおばあさんはゆっくりとお店の中に入りました。イスに腰掛けて、一息ついています。

「今日はどうしたの?」
「ちょっと腰を痛めてしまってねぇ。腰痛に効くお薬があればほしいんだけれどねぇ」

 ふきおばあさんは腰をさすりながら言いました。

「わかりました。十分くらい待ってもらっても大丈夫ですか?」
「ええ、ええ。大丈夫だよ」

おばあさんの返事を聞いたあけみはザルを持って一旦庭にヨモギを摘みに行きました。雨はまだ降っていますが、小降りなので傘はなくても平気です。庭は五つの花壇があり、その中からヨモギを摘みました。

「あ……土が少し弱くなってる。雨が続いたからかしら?雨が止んだら土の手入れをしなくちゃ」

 花壇はそれぞれ春夏秋冬と魔女にしか育てられてない薬草用と、合わせて五つに分けています。魔女が自分で作った土に宿った魔力により、普通の薬草より効き目が強い薬草を育てることができます。
 あけみはヨモギを持ってキッチンへと向いました。それをきれいに水で洗い、木綿袋に入れて煮だします。透明だったお湯が濃い茶色になりました。煮だしたものを瓶に注いでから、一粒の種を入れました。この種は『おとずれ花』という花の種で、薬を長持ちさせる効果があります。

「ふきおばあさん。お待たせしました」

 あけみはイスに腰掛けていたふきおばあさんに瓶を渡しました。そして、薬の使い方を説明しました。

「これをスプーン一杯分お風呂に入れて、そのお風呂に入ってくださいね。魔女が育てた植物はほかのものより成分や効果が強いので、それ以上は入れないでください」
「わかったよ。ありがとうね」

 ふきおばあさんはお礼を言ってお代を払い、ゆっくりとお店を出ていきました。
 あけみはふきおばあさんを見送ったあと、花壇の手入れの準備を始めました。

 梅雨はまだ続いています。魔法のヒヤシンスに芽が出て、つぼみができました。普通のヒヤシンスなら花が咲くのに四カ月ほどかかりますが、魔法のヒヤシンンスは一カ月ほどで花が咲きます。
 昨日は五月晴れだったのに、今日は雨です。昨日は花壇の土の手入れをしました。弱っている土はまた元気になり植物に栄養を与えてくれています。
 あけみはキッチンで空の瓶をいくつも用意していました。そのうちのひとつには灰色のような色がついています。側でシューはなにが始まるのかとじっ、と見ています。あけみは魔女にしか扱えない薬草を何種類か用意しました。
ひとつめはオレンジ色でたくさんの細い花びらの「ぬくもり花」です。
ふたつめは流れ星が落ちた場所に咲くと言われる「流れ星の花」という青白い花です。
みっつめは「そよ風草」という幅の広い葉をもつ薬草です。
色のついていない瓶にぬくもり花とそよ風草をそれぞれ分けて入れ、全部浸かるくらいまで油を注ぎます。ふたを閉め、寝室の窓辺に置きました。キッチンに戻ってくるとシューが尋ねました。

「あけみ、なにしているんだ?」
「塗り薬を作る下準備をしているの。薬草の成分を油に出させるの。そのために温かいところに置いてきたのよ。寝室はよく日の光が入るから」

 あけみは次にお湯を沸かしました。お湯が沸く間にボールの中に流れ星の花と油を入れました。お湯が沸き、あけみはボールの中身を湯煎し始めました。三時間ほどすると、花の形はもうわかなくなっていました。それをガーゼで絞ります。

「よし、できた」

 あけみはできたものを色のついた瓶に注ぎました。そしてキッチンの道具などをしまっているところにしまいました。

「その三つの油はどんな効果の塗り薬になるんだ?」

 シューの質問にあけみは説明しました。

「ぬくもり花の塗り薬は痛めたところを温めるための薬、流れ星の花の塗り薬は皮膚やケガの薬、そよ風草の塗り薬は痛めたところを冷やすための薬にするのよ。ぬくもり花とそよ風草は一カ月くらい時間がかかるから別の日に作るけれど、流れ星の花は冷めてから塗り薬にするわ」

 あけみは片付けを終えると流れ星の花の油を冷ましている間に少し休憩をしました。油が冷めたころにキッチンに戻り、塗り薬を作り始めました。
 油を湯煎し、蜜ろうを一センチ角にして入れ均等になるまでかき混ぜます。均一になったら温かいうちに違う瓶に入れました。

「あとは固まるのを待って完成ね」

 あけみはさっきと同じ場所にしまいます。
 あけみは新しく作った薬がうまくいくか、どきどきしながら小さな扉を閉めました。