あけみの薬屋 05

秋の歌声 (1)

 ナツがひなた村を去って、秋に近づいていました。けれど、まだ暑い日は続いています。あけみは今日もお客さんが来ていない合間に花壇や薬草の手入れと、少なくなった薬を作って足したりしています。最近は玄関の扉に花粉症の薬があることを書いたからか、花粉症の薬がよく売れます。今来ている、女の人もそうです。その女の人は村の真ん中にある、えりかが通っている学校の先生だそうです。

「えりかの担任の先生なんですか」
「ええ。えりかちゃん、よくあなたのことを話しているわよ。あなたの作る薬はよく効くし、ハーブティーはおいしいって」

 あけみは知らないところで自分がほめられているのを知って、嬉しいけれど少し恥ずかしく思いました。

「えへへ……。
 これが花粉症のハーブティーで、こっちは疲れがとれるハーブティーです」

 あけみは二つの缶を先生に渡しました。先生は「ありがとう」と言って二つを受け取りました。あけみは中に淹れ方を書いたメモを入れていることを伝えました。

「やっぱり、学校の先生って忙しいんですか?」
「ええ。けれど、子供たちと授業できたり遊んだりするのは私の夢だったから、すごく楽しいわ」

 先生は笑顔でそう言いました。

「ただ、もう少し大人しくってもいいかもね」

 先生は冗談っぽく言いました。あけみと先生は「うふふ」と小さく笑いました。先生はお代を払いました。あけみはいつもお客さんにしているように玄関まで見送りました。

「ありがとうございましたー!」

 先生はあけみに手を振って、帰りました。あけみは途中になっていた薬草の手入れを再開することにしました。質のいい薬草を育てるためには雑草を抜いたり、土に魔力を注いだりしなければいけません。土に魔力を注ぎ終えたころ、一人の女の子がお店の前に立ってお店全体を見ていることに気がつきました。大きなどんぐりのヘアピンをつけたあけみより少し年下くらいの女の子がいました。茶色の七分そでのシャツに赤いオーバーオールを着ています。あけみは立ち上がりました。

「なにか、ご用ですか?」

 女の子はあけみのほうを見ました。

「ねえ、ここにあなたくらいの男の子って来た?サンダルをはいて、腕輪をした……」

 この女の子はナツのことを言っているのでしょうか。今のところあけみはひなた村で腕輪をした人はナツしか出会ったことがありません。

「それってナツのこと?」
「そうそう」

 ナツのことを知っている人はおそらく少ないでしょう。あけみはある一つの考えが浮かびました。

「うん。あなたは魔女だよね?だって、そこの花壇の薬草、魔女にしか育てられないもん」

 女の子は花壇を指さしながらもあけみを見て言いました。今花壇にはまだ育てている途中の魔女の夏の薬草が残っています。

「ええ。私はあけみ。あなたは?」
「アタシはアキ。秋の精霊のアキ」

 アキはにっこり、と笑って「ヨロシクね」と言い右手を差し出しました。あけみも「よろしくね」と言って軍手をはずし、握手しました。あけみはなぜナツがお店に来ていたのか尋ねました。

「どうしてここにナツが来たってわかったの?」
「アタシはずっとナツのあとを通っているから、ナツがどこに行ったとかもわかるの。カンみたいなものかな」

 あけみは季節の精霊の不思議な絆に、少し感動しました。そして自分とシューとの関係に似たものを感じました。あけみもシューと離れていてもだいたいどこにいるかわかるからです。それも勘のようなものなのです。そう思うと少し口うるさいシューとの関係もいいものだと思いました。

「ナツはずいぶんここに来ていたんだね」

 アキは言いました。あけみは首を縦にふりました。

「最初にケガの手当てをしてから、よく来てくれたの」
「ケガ?またナツのやつケガしたんだ……」

 アキが言ったことをあけみは聞き逃しませんでした。

「またって、ナツってよくケガをするの?」

 アキは腕を組んでしみじみ、とうなずきました。

「この前もたんこぶできていたんだって」

 あけみはハーブティーの葉と一緒に傷薬も渡せばよかったと、心の底から思いました。そして、今ごろケガをしていないか心配になりました。

「ねえ、なんでこんなにも薬草を育てているの?」

 アキはさっきから気になっていたのか尋ねてきました。

「私、薬屋をしているの。その薬を作るために薬草を育てているの」
「へえ、そうなんだ!ねえねえ、どんな薬を作るの?」

 あけみがアキの質問に答えようとしたそのとき、お客さんが来ました。よく疲れがとれる入浴剤を買いにくるおじさんです。年齢はおそらくあけみのお父さんと同い年くらいで、畑を耕しています。

「あけみちゃん。いつものをおくれよ」
「はい。ちょっと待ってくださいね」

 あけみはいつもの入浴剤をキッチンに取りに行きました。入浴剤と言っても布に乾燥させて刻んだタンポポを入れたものです。あけみはおじさんに入浴剤を渡し、お代をもらいました。アキはその様子を見ていました。

「本当に薬屋さんなんだねー」

 アキは感心しているようでした。あけみはにっこり、と笑って言いました。

「ええ。
 薬もだけれど、ハーブティーも作っているの。もしよかったら飲んでみてくれない?」

 あけみはアキの返事を聞く前にハーブティーを持ってきました。あけみは前にナツが、アキは薬草に詳しいと言っていたことを覚えていました。そして、昨日初めて組み合わせたハーブティーを味見してもらおうと思ったのです。アキの顔は笑顔になり、喜んでハーブティーを受け取りました。あけみはアドバイスがあれば言ってほしいことを伝えました。アキはうなずいてナツと同じように浮き、けれどナツよりも速い速度で、どこかに飛んで行きました。
 あけみは新しい季節の訪れと、出会いに自然と胸が躍りました。あけみは軽い足取りでお店の中へと入りました。

 夏の薬草の残りも収穫し終えたころ、少し涼しくなってきました。
 あけみは夏の間はできなかったので、今日は薬草を干すことにしました。あけみはザルを用意しました。すると、シューが足元に近づいてきました。

「薬草を干すのか?」
「ええ。夏は干せなかったからね。今からそこの小川で薬草を洗ってくるわね」

 シューは落ち着きがなくあけみの足元を行き来しています。

「俺もついて行く」

 あけみは少し驚きました。シューがそんなことを言うのが意外だったのです。
あけみとシューは側の小川に行きました。小川の水で薬草についている土や汚れを洗います。このときに洗いすぎると香りが飛んでしまうので気をつけなければいけません。
 土やごみを洗い落としてから、あけみはお店へ戻りました。そして、半分は風通しのいい部屋につるして乾燥させます。もう半分は庭のよく日の当たるところで乾燥させます。どちらも明日には乾燥しているでしょう。
 次に花壇に新しく種をまきました。ひとつひとつ魔力をこめて植えます。まき終わるころにはあけみはじんわりと汗をかいていて、へとへとになっていました。種をまくときに魔力を注がないと、いい薬草に育ちません。魔力は普通の人の気力のようなものです。なので、強い魔法を使ったり、なにかに魔力を注いだりするとへとへとになってしまうのです。あけみはシューに店番を頼んで寝室へ向かい、ベッドに倒れこみました。あけみはそのままベッドで寝てしまいました。
 あけみが目を覚ましたときにはすでに空は真っ暗でした。あけみは居間に行きました。居間ではシューが丸まっていました。

「ごめん、シュー。寝すぎちゃった」

 シューは耳をぴくっ、と動かしたあとに首をくるり、と回しあけみを見ました。

「今日はあれからお客は来てないから、だいじょうぶだ」

 シューはとっ、と身軽にイスから下りました。

「魔力をこめるのは大変だな」
「うん。でも、これがつらくならないようにならなくちゃ」

 あけみは両手に握りこぶしを作って気合を入れて言いました。

「それにいい薬を作ってみんなに喜んでもらいたいもの。そのためにはいい薬草を育てなくちゃ」

 あけみはそう言ったあとに「ごはんにしようね」とキッチンに行きました。晩ごはんを食べてからは、薬の作り方や薬草について書かれた本を読みました。
 本を途中まで読んで、寝ることにしました。ランプの灯を消します。いつもはベッドの下で寝るシューですが、布団の中に入ってきました。

「珍しいわね、シューが布団の中に入ってくるなんて。どうしたの?」

 きょうのシューはいつもと違います。なにかあったのでしょうか。

「……修行していたころに比べてずいぶん成長したなあ、と思ってな。
 修行していたころなんか薬を作るどころか、普通の薬草もろくに育てられなかったからな」
「う、うるさいなあ……」

 自分の昔のことを言われると恥ずかしいものです。それが失敗したことについてならばなおさらです。シューは話を続けました。

「最初にお前の使い魔になったときは不安だったよ。本当にこんなやつが魔女になれるのか、って。普通の猫として生きたほうがよかったのかもなあ、とか思ったな。
 けれど、お前は一生懸命薬草の育て方も薬の作り方も覚えたし、オリジナルの薬を作れるようにもなった。修行していたころに比べて薬の効き目も……少しだけだけれど強くなったし」

 あけみは昔の話ばかりしているシューを見て、突然不安になりました。

「ねえ、シュー」
「ん?」
「……いなくなったりしないよね?」

 シューは「当たり前だ」と言って続けました。

「お前は俺がいなかったら、店番や薬作りの補助は誰がするんだ?」
「……うん、そうだよね」

 シューはあけみの思ったことがわかったのか、言いました。

「多分、こんな風に昔の話をするのは……多分俺の力が強くなるからなんだ」

 使い魔は魔女の魔力によって変わります。魔女の魔力が弱ければ、自分以外の人には使い魔が言ってことはわからないし、背中の翼も小さいのですが、魔力の強い魔女の使い魔の翼は大きく空を飛ぶことができ、人に変身することもできます。今のあけみの魔力ではシューの話す言葉は周りの人にわかりますが、空を飛ぶどころか一瞬しか宙に浮けません。

「俺たち使い魔は力が強くなるときに昔を思い出すってケケが言っていた」

 ケケとは師匠の使い魔の名前で、カラスなのです。よくシューに使い魔としての心得や役目について教えていたそうです。

「なんか頭の中から生まれたころからの記憶があふれ出る感じだって聞いていたんだが、あまり想像できなかった。前に力が強くなったときはそんなに昔のことを思い出さなかったからなあ」
「じゃあ、なつかしくなったから今日はこんな風にひっつきたくなったの?」
「まあ、そんなかんじだな」

 シューはふああ、と大きなあくびをしました。あけみはそういえば師匠が、使い魔の力が強くなるときはたくさん眠ると言っていたことを思い出しました。おそらく明日シューは一日中寝ているでしょう。

「おやすみ、シュー」
「おやすみ。あけみ」

 シューとあけみは同じ布団の中で眠りにつきました。


 次の日、乾燥させていた薬草を保存したり、お客さんに薬やハーブティーを出したりしている昼間にはシューは寝室から出てきませんでした。あけみがひとりで晩ごはんを食べ終わって、片付けがそろそろ終わるというころになってようやく部屋から出てきました。寝ぼけ眼で大きくあくびをしました。

「おはよう。ずいぶん遅いおめざめね、シュー」
「ああ、おはよう」

 シューはもう一度大きくあくびをしました。

「なにか食べる?」

 あけみは身に着けていたエプロンで濡れた手を拭きながら尋ねました。シューは頭がまだ働いていないのかぼー、としています。あけみは寝ぼけているシューにとりあえず水をお皿に注いで出しました。シューは最初はぴちゃぴちゃ、と水をなめるように飲んでいましたが、途中でそれがじれったくなったのかいきなりお皿を「持って」から、すごい勢いで水を飲み干しました。シューが二本足で立っている様子を見て、目を丸くしました。

「え、シュー?」
「ん?」
「え、なんで宙に浮いているの?それに翼、大きくなってない?」

 昨日までのシューの翼はあけみの手のひらくらいの大きさで、宙に浮くこともできませんでした。けれど今のシューは床下から三十センチほどですが、浮いていました。翼も大きさがあけみの手の指先から腕の関節くらいまでになっていました。

「まあ、あけみの魔力が強くなったってことだろう」

 あけみは自分が成長していると言われてもあまり実感できませんが、このようにシューが少しずつ翼も大きくなり、飛ぶことができるようになっていくのを見ると、自分は魔女として成長していると実感できます。

「まあ、まだまだ師匠のような魔女には遠いが」

 シューはいつものように、あけみにとってはよけいな一言を言ってから「腹減った」とご飯をねだりました。あけみはシューの分の晩ごはんを用意しました。  晩ごはんを終えてから本の続きを読み、寝ました。
 今日のシューはいつものように、あけみのベッドの側に置いてあるカゴの中ですやすや、と眠りました。

 最近、ひなた村にはススキが生えています。風が吹くたびにふわりふわり、と優しくなびきます。
 あけみが薬について書かれている本を居間で読んでいたそのとき、扉が開きました。

「やっほー!」

 アキは元気いっぱいに手を挙げながらアキがお店に入ってきました。

「あら、アキ。いらっしゃいませ。このあいだのお茶、どうだった?」
「おいしかったよ。ただ、もう少しカモミールをもう少し多く入れたらもっとおいしくなると思うよ」

 あけみは言われたことを、ノートにメモしました。ノートには薬やハーブティーの薬草の配分が書いてあります。

「でもさすがは魔女だね。普通の人が作ったハーブティーより断然おいしかったよ」
「本当?よかった」

 誰かに自分のハーブティーや薬のことをほめられるのは、やっぱりうれしいことです。

「それで」

 アキが腰に手をやり、にこにこ、と笑顔を浮かべながら言いました。

「お代、っていうわけじゃないんだけれど、今日の夜空いている?」

あけみが頭にはてなマークを浮かべて「空いているけど……」と答えました。

「今日は満月だよ。この辺りに秋の満月のときにしか採れない薬草があるから、いっしょに薬草採りに行かない?月夜草っていうんだけれど」
「月夜草がこの辺りにあるの?」

 アキはうなずきました。
月夜草とは、アキが言ったように秋である九月の満月の夜にしか採ることができない薬草です。見た目は雑草のように地味なのですが、熱さましや心を落ち着かせるのにいいと言われています。少しの量でも効き目があるので使う量に気をつけなければいけません。

「行く行く!」

 あけみは笑顔になりました。

「よし、決まり!それじゃあ、夜迎えにくるね」
「ええ!そうだわ、私ハーブティーやお茶菓子も持っていくから、一緒に食べましょう」
「やったー!」

 アキは喜びからかとび跳ねました。その様子は、季節の精霊ではなく普通の子どものようでした。

「それじゃあ、夜に迎えにくるからねーっ」

 アキはお店を出ると軽い足取りでふわり、と浮き飛んでいきました。
 あけみはまだお昼なのに、心が躍っていました。月夜草を採ることができることもうれしいのですが、夜に出かけることがないのでわくわくしているのです。

「そうだわ、お茶菓子作らなくっちゃ。なに作ろうかしら?」
「浮かれるのもいいけれど、ちゃんとお客の薬も作れよ」

 あけみはシューに言われて少し腹が立ちましたが、少し考えてシューの言うことが正しいと思ったあけみは、気を引き締めました。それでもわくわくするのは抑えきれませんでした。あけみはお客さんが来ていないときにお茶菓子を作りました。今回はメリッサとクルミとココア味の三種類のクッキーを作りました。
 あけみは早く夜にならないか、窓をちらちら、と見ていました。


 晩ごはんを食べ終わり、お茶菓子やポットと摘んだ月夜草を入れるための小さなカゴなどをバスケットに詰めて、準備をし終わったころにアキがやってきました。窓の外からコンコンッ、とノックをしました。あけみはほうきを持って外へ出ました。シューは寝るからと言ってついてきません。

「おまたせ、アキ」
「ううん。それじゃあ、行こうか」
「うん」

 アキはふわり、と宙に浮きました。あけみもほうきにまたがって宙に浮きます。

「アタシのあとについて来てね」

 そう言ってアキは森に向かって飛んで行きました。あけみはそのあとを追います。村の真ん中にある学校を越え、その向こうにある森の上を飛んで、山に向かっています。ひなた村を見下ろすと、どこのお店も家も電気が消えていました。今あけみとアキを照らしているのは星と月の光だけです。空気は澄んでいて、冷たい風が頬をなでます。

「そこの山に生えるんだよ」

 アキはひとつの山を指さしました。そしてそこに向かって二人は飛んでいきます。
 あけみとアキは、その山の頂上に降り立ちました。頂上ではこの季節には珍しく生えている草が青々としています。見た目はどこにでもあるような、葉が細長く根元でまとまっている草です。けれど、この草が月夜草ということをあけみは知っています。

「すごい……こんなにたくさん生えているとは思わなかったわ」
「アタシも最初ビックリしたんだ。どこに行ってもこんなに月夜草が生えているところはないよ。あけみは月夜草を摘んでなよ。アタシは少し、精霊としての仕事をするからさ」

 あけみがうなずくとアキは真上に飛んで行きました。
 あけみはバスケットをその場に置いてその中から小さなカゴを取り出しました。小さなカゴを持ってしゃがんで、指をからませて祈りました。祈りを終えると月夜草を摘み始めました。自分の花壇以外で薬草を摘むときに気をつけなければいけないことは、すべて摘んでしまうのではなく使う分だけ摘むことです。そうすれば、摘んだ分も成長して長い年月薬草を摘むことができるからです。
 あけみは持ってきていた小さなカゴの半分くらい月夜草を摘むと、立ちあがりました。満足そうにカゴの中の月夜草を見つめます。

「うん、これだけあれば十分だわ」

 あけみは夜空を仰ぎました。まだアキは季節の精霊の仕事をしているのでしょう。肌寒い風が吹いています。
 あけみはアキが仕事をしているあいだに、お茶の準備をすることにしました。バスケットのふたを開け、敷物を取り出し、小石などが少ないとこに敷きます。あけみは靴を脱いで座ってからティーカップとポット、クッキーを準備しました。それを終えたあけみは、静かにアキを待っていました。すると、空から歌声が聞こえてきました。その歌声は美しく、落ち着いていて、まるで秋の夜のようです。あけみはその歌声を聴いていました。
 歌声が聞こえなくなった直後、アキが降りてきました。

「ごめんごめん、おまたせー」
「ううん、今からお茶淹れる準備するわね」

 あけみはティーカップにハーブティーを注ぎました。今回のティーカップとポットは魔法のティーセットで、時間が経っても温かいままなのです。師匠があけみの独り立ちのお祝いに、とくれた物です。

「はい、どうぞ」

 あけみはティーカップをアキに渡しました。アキはハーブティーの香りをかいでから飲みました。

「あー……おいしい。疲れがとれる」
「よかった。
 ねえ、さっき歌声が聞こえなかった?」

 あけみはハーブティーを飲んで言いました。

「ああ、聞こえてたんだ?あれ、アタシが歌っていたんだ」

 アキが照れながら言いました。あけみが自分より年下の姿のアキがあんなにも落ち着いた歌声を出せることに驚いたのと同時にすごいと思いました。

「季節の精霊は力を出すためにアタシの力は歌なんだ。歌うことで季節が変わるんだ
。  あ、ちなみにナツは空で座っているだけ。ほかの季節の精霊も舞を踊ったり、拳法の型をしたりするよ」
「そうなんだ。でもナツが一番楽なんだね」
「そうなんだよ。ずるいよねー」
「でも少しわかる気がするわ。夏ってじっ、としていても夏ってかんじがするもの」
「あー、そうかも」

 二人はぷっ、と吹き出してから笑い出しました。もしかしら今ごろナツはくしゃみをしているかもしれません。そんなことをあけみは思いました。
二人はひとしきり笑い終わると、クッキーを食べました。あけみはクッキーの種類の説明をしました。アキは気に入ったのかたくさん食べています。

「月がきれいね。私、秋の月が一番きれいだと思うの」

 あけみは言いました。月の光はとても明るく、ティーカップやクッキーのある場所がきちんとわかります。

「へへ。そう言ってもらえると、秋の精霊としてはうれしいな」

 アキは照れているのか、ほおをぽりぽり、とかきました。

「あ、月夜草は採れた?多分もうそろそろなくなるから」
「うん。十分よ」

 あけみがうなずいて、ハーブティーを飲みました。その直後、地面に生えていた月夜草が次々とすぅ、と静かに、ゆっくりと消しゴムで文字を消すかのように消えていきます。月夜草が消えると、ニョキニョキ、と別の草が姿を現しました。そして、さっきまでの月夜草が生えていたときと同じような状態になりました。けれど、あの青々としたかんじはありません。あけみは一瞬のできごとに目を離せませんでした。
「あっという間に消えたわね……」
「この山、普段は普通の草が生えているんだけれど、一晩だけ月夜草と交代するんだよ。来年まで土の中で成長するんだよ」
「動物の冬眠みたいなかんじ?」
 あけみがそう言うとアキは「そうそう」とうなずきました。
 それから二人は月を眺めながら他愛もないおしゃべりをしました。アキから聞く話はナツの話とはまた違う新鮮さがありました。アキの歌う歌は何種類もあって、その歌によって秋が深まるということも聞きました。
 少し月の光が弱くなって、空の紺色がほんの少し明るくなったときにアキは立ち上がりました。
「そろそろ帰ろう。あけみ、寝る時間なくなっちゃうよ?」
「本当ね。帰らなくちゃ」
 あけみとアキは片付けを始めました。敷物やティーセットをバスケットにしまいます。もちろん、月夜草を入れている小さなカゴもバスケットの中にあります。
 あけみはアキと途中で別れ、お店に帰りました。そしてシューを起こさないようにそっ、と布団の中に入りました。
 あけみは最初興奮して眠れませんでしたが、すぐに夢の中へと旅立ちました。