あけみの薬屋 09

もう一度の夏

 あれから森にもひなた村にも春が訪れ、あけみがひなた村に一年が経ちました。土もいい土ができ、薬草の質もあがりました。ハルもときどきお茶をしにくることもありました。ハルはおっとりとしているように見えますが、意外にしっかりしていてあけみにとってもお姉さんのような存在になりました。それにおしゃべりが好きで、ほかの季節の精霊の昔話をたくさんしてくれました。
 どれだけ仲良くなってもハルは季節の精霊なので、去る日がやってきます。ハルで季節の精霊との別れは四度目ですが、来年またくるとわかっていても、やっぱりさみしいものです。ハルもまた来年くるのに、泣きたくなるほどさみしいのです。ハルはいつものように優しい笑顔で次のところへ旅立って行きました。

 あけみはハルが去ってからもいつものような生活が続いていました。
 シューはあれからまた翼が大きくなりました。最近は体も少し大きくなってきた気がします。今では飛ぶことにも慣れたようで、軽い物なら持って空を飛べます。けれど、性格は相変わらずで、余計なひと言をよく言います。
 えりかは新しい学年になってもよくお店に遊びに来てくれますし、ときどきハーブティーや薬を買っていきます。えりかは初めて兄弟ができたと言っていました。弟だそうです。弟が大きくなったら一緒にお店に遊びに来る、と言っていました。
 小物やアクセサリーを作っている女性は、安眠できるハーブティーをまだよく買いにきてくれます。最近はアクセサリーや小物のデザインの人気が出てきて以前よりいそがしそうですが、やりがいがあると元気よく言っていました。
 あけはというと、最近自分で考えた薬をノートにまとめることにしました。最初はすべて覚えていたのですが、自分で考えた、オリジナルの薬の数が増えてきたのでノートに材料や分量、作り方を書くことにしたのです。お店のほうは、ひなた村にきて一年経ち、馴染みのお客さんが増えてきました。特にあけみの作るリラックスできるハーブティーと手荒れの薬と腰痛の薬は人気があります。
 春から夏に移り変わるこの時期、あけみはわくわくしていました。それはシューやえりかだけでなく、ほかのお客さんにも見ていてわかるほどでした。


 ある日、強い雨が降っていました。雨のためお客さんも少なくあけみはオリジナルの薬のレシピを書いていました。あとから見てもわかりやすいように細かく、絵つきで書いています。あけみの筆がふと、止まりました。窓の外は雨が斜めに降っていて植物も風の吹く方向に押されていました。ガタガタッ、と窓が風で揺れる音もします。

「風が強いわね、シュー」
「ああ。今外に出たら飛ばされるだろうな」
「こんな状態で外に出る人なんていないわよ」

 あけみがそう言った直後、コンコンッ、とノックの音が聞こえました。あけみとシューは顔を見合わせました。なにか物が扉に当たったのでしょうか。すると、またコンコンッ、とノックをする音が聞こえました。

「はーい」

 あけみはイスから立ち上がって、玄関の扉を開けました。
 するとそこには、全身すり傷だらけの、一年ぶりに見る男の子がいました。

「あー……また近道しようとしたらころんじゃって。今年こそはだいじょうぶだと思ったんだけれど」

 あけみはぷっ、と吹き出してそれから笑ってしまいました。

「こ、今年もケガをしたの?」
「あ。笑うなよー。けっこう痛いんだから」
「ごめんなさい、ナツ。だいじょうぶ?」

 一応心配して尋ねましたが、あけみは笑いをこらえることができず笑ってしまいました。

「ちぇー。ひっどいなー」

「ごめん。手当てするから入って。
 おかえり、ナツ」
「うん。
ただいま、あけみ」

 ナツは玄関の扉を閉めました。あけみは救急箱を持ってきて、ナツのケガの手当てを始めました。


あけみはきっとずっとこの村で何回も季節を体験し、何度も出会い、別れを繰り返すでしょう。それでも、どれだけ悲しくつらいできごとがあっても、きっとあけみは誰かのために薬を作り続けるのです。
だって、それがあけみという名前の魔女なのですから。