2.取り換え子と指輪交換

 

それから月日は流れた。ルドとケリドウェンの、いやインナップヒル全体での子育てはひと区切りつき、マリィナは十三歳で独り立ちをした。四年経った今では立派に機織りで生活できるようになっていた。
 マリィナの部屋の窓から朝日が差しこんでいるにも関わらず、未だにベッドの中で眠っていた。そのときコンコンッと扉がノックされた。
『マリィナ、マリィナ。朝ごはんの用意がすみましたよ』
 鈴のような声が聞こえた。マリィナは誘惑に抗いなんとか起き上がった。
「……んー、わかったあ」
絡み合った細い金髪をブラシでとかした。お気に入りの生成りのシャツと赤いベストを着て、紺色のスカートを履き、白いコルセットを巻いた。部屋を出てすぐにある階段を下りて、リビングへと向かった。
「おはようっシリー」
 家の妖精シルキーのシリーは、リビングの真ん中のテーブルに朝食を並べる手を止めて紺色の瞳でマリィナを見た。頭に巻いているバンダナとふんわりとして動きやすいワンピースはいつ見ても真っ白である。
『おはようございます、マリィナ』
 二人は切り株の椅子に座った。丸いテーブルの上には砕いたどんぐりが練りこまれたどんぐりパン、りんごのジャム、チーズに数種類の果物が乗せられている。
「今日は起きるのが随分遅いですね。いつもならとっくに散歩くらいまで済ませているでしょうに」
「そろそろ在庫の織物がなくなるからデザインを考えてて。いつの間にか真っ暗になっちゃった」
『そうだったんですか。朝ごはん、もう少し遅いほうがよかったですね』
「ううん大丈夫。ありがとう。いただきまーす」
 マリィナはスライスされた半円のどんぐりパンを手にとった。まだほんのりと温かい。
「あ、これ今朝新しく焼いてくれたの?」
『ええ。昨日で食べきってしまったので』
「ありがとう。ああ、なんて朝から焼き立てパンなんて贅沢っ」
 マリィナは機嫌よくりんごジャムを塗った。はちみつで作られたそれの優しい甘みが口いっぱいに広がり、パンのどんぐりが食感のアクセントとなっている。
「シリー、いつもおいしいごはん作ってくれてありがとうね。掃除とかもほとんどお願いしちゃってるし」
『いいえ。私はそういう存在ですので。むしろこんな風に住まわせてもらって、私のほうがお礼を言わなくてはいけません。私たちシルキーは人の家にしか住めませんから。ありがとうございます、マリィナ』
「そんなそんなこちらこそ……」
 きりがないやりとりをしながら朝食を終えたマリィナはすべての食器を台所に持って行き、水をはった桶に浸けた。ぼろ布でしっかりとこすり、乾燥用の棚にしまった。シリーに頼み込んでさせてもらっている数少ない家事である。あまり家事をひとりでこなしすぎるとシルキーは家に住めなくなるからだ。
 朝食を終えてマリィナは仕事にとりかかった。機織り機の前に座る。縦に規則正しく張られた糸、手前には昨日まで織った横糸が縞模様を描いていた。マリィナは髪を高い位置で結い、糸を何周も巻き付けた両端が尖っている木片……シャトルを手にとった。それを縦糸にくぐらせては機織り機を手前に引いてすき間をなくす。時折糸や通す縦糸を変え、機織り機を手前に引いた。それを延々と繰り返す。シャッ、タンタンッ、シャッ、タンタンッと一定のリズムで機織りの音が歌い、ただの糸だったものが一枚の布と近づいた。
 機織りをしている間、マリィナの頭と心は空っぽになり澄んでいくような気持ちになるのだった。糸が一枚の布となるにはとても時間がかかる。だからこそ完成したときの喜びはなにものにも代えられないとマリィナは思っていた。
 昼ごはんも食べずに作業をしていると、いつの間にか夕方になっていた。遠慮がちに扉がノックされた。
『すみませんマリィナ。買い出しをおねがいしてもいいでしょうか?』
「あ、うん。いいよ。ちょっと待ってね」
 きりのいいところまで織り、マリィナは片づけを始めた。
 マリィナはシリーからメモを受けとった。彼女らしい丁寧で流れる字で買うものが書かれていた。
『いつもすみません』
「いいよいいよ。シリーたちは家の敷地から出られないんでしょ?これくらいのことさせてよ。
 それじゃあ行ってくるね」
 マリィナは自分が織った様々な大きさの布と買い物カバンを持って出かけた。



 インナップヒルは人間界や坑道に続くらせん階段とそれを取り囲む池を中心に、五つの地区に分けられている。らせん階段の足元には広場があり、そこから五本の大きな通りが分かれている。対角線上にある地区や隣の地区を繋いでいる。それらとは別に池を囲むように一周、離れてさらにもう一周、内外合わせて二本の道で隣同士の地区を行き来する。
 森が一番多いラー地区の中にあるマリィナの家はすぐに大きな通りに出ることができる。そのまま北西へ進み、左に曲がって外側の道に入る。すると中心地であるリィ地区に来ることができる。
「ええっと……牛乳とチーズと小麦粉。それからモグラのひげか。せっかくだからシリーにちょっといいクリームでも買って帰ろうかな」
 リィ地区の市場を歩きながら、マリィナはシリーのメモを見た。店はどれも木や花、葉などを組んだだけの簡単なものだ。野菜や果物、乳製品、食べ歩きができそうなお菓子の店などが左右に並んでいる。馴染みの店に行くまでにとある店の前を通った。
『フォイゾンをこれいっぱいにくださいな』
『はあい』
 客からミルクピッチャーを受けとった屋台の店主は、壺から木のお玉で琥珀色の液体を掬った。はちみつにも似ているが違う。フォイゾンといううまみがたっぷり詰まった調味料だ。愛好家の中にはそのまま舐める者もいるくらいだ。しかしマリィナはこのフォイゾンがどうにも苦手だった。甘ったるいにおいに胸やけがしそうになるがそれだけではない。フォイゾンそのものの存在がどういうわけが怖かった。この十七年間、一度も口にしたことがないししたいと思ったことがなかった。マリィナは足早にフォイゾンの屋台の前を去った。
 よく来る野菜を売っている屋台の前を通ると声をかけられた。
『あ。マリィナ。今日は珍しいものが入ったんだ、見ていきなよ』
 蟻の妖精である店主は台に乗ってもマリィナの胸よりも下くらいしかなかった。そんな店主に合わせるようにマリィナは中腰になった。
「こんばんは。なにが入ったの?」
『ふふ、驚くよ』
 そう言って蟻の店主はごそごそと足元からビンをとり出した。マリィナの手のひらくらいの大きさで、無色透明の液体が入っている。
『ジャーンッ!これ、鹿の涙だよ。この世を去るときにしかとれない、とびきり上等なものさ。これだけ集まるのにはとても骨が折れるんだけれど、商人がようやく溜まったからって仕入れたんだ』
「へえ。それは確かに珍しいわね。どれくらいお渡ししたらいい?」
『そうだなあ……ボク今度別の村で結婚式に招待されているんだ。そのときの服を仕立てる布がほしいな』
「あら、おめでたいね。それじゃあ……こんなものはいかが?」
 マリィナがとり出したのは濃い緑色と白の縞模様の布だった。
「大きさも十分だろうし、素敵な服ができると思う」
『ほかの色や柄はある?』
 マリィナは次々と織った布を見せた。蟻店主は目移りしていたが、ようやく二種類の赤で描かれたチェック柄の布に決めた。
『とてもかっこいいね、この濃い赤。これにするよ』
 蟻店主は鹿の涙の入ったビンと袋いっぱいの木いちごをマリィナに渡した。
『はい。これサービス』
「ありがとう」
 マリィナは赤いチェックの布を渡した。蟻店主は嬉しそうに『まいどお』とマリィナの背中を見送った。
 別の店でそれぞれ目的のものを買い終えたマリィナはシリーに渡した。
『まあ鹿の涙だなんて久しぶりですね。……これ、赤牛印の濃厚クリームじゃないですかっ』
「うん。シリーが喜ぶかなって」
『マリィナ……ありがとうございますっ。大事に飲みますね』
 シリーは頬を上気させながら台所の食物棚にそれらを収めに行った。
 ばんごはんは鹿の涙のスープ、きのこのステーキ、今朝のどんぐりパンだった。デザートに木いちごのはちみつ煮が出てきた。鹿の涙のスープは塩を一切入れていないとシリーは言っていたが、しっかり味がついていた。
『木いちごの残りは明日ジャムにでもしようかと思います』
 はちみつ煮を食べながらマリィナはじいっとシリーを見つめた。バンダナから見える尖った耳、縦に割れた瞳。
『どうしたんですか?ほかに食べたいものでもありますか?』
 反応がないことを不思議に思ったシリー。
「え?う、ううんジャムがいいなあ。木いちごジャム大好きっ」
 食事を終えたマリィナは二階の自分の部屋に戻った。タンスの横にかけてある鏡を見る。そして通り過ぎる隣人や同居人と比べてみた。
「丸い耳と瞳孔……。全然みんなと違う」
 どれだけ体の大きさや肌の色が違っても、マリィナ以外の妖精はみんな耳が尖っており瞳孔は縦に長い。
「ううん、それだけじゃない。みんなフォイゾンをおいしいだとか食べたいって思うのに、あたしは逃げたくなる。みんなそれほど見た目は変わらないのに、あたしだけ大人になっていく。魔法も使えない。……なんであたしだけ、みんなと違うの?」
 鏡に映ったマリィナはその答えを知らず彼女自身を見つめ返すだけだった。

 翌日。いつものように機織りをしている窓を、ノックと呼ぶには強い音で叩く音がした。マリィナが顔を上げてみると、外に知った顔がその場で飛んでいた。マリィナより少し暗い金髪で、オレンジ色の瞳は元気よく輝いているピクシーだ。
「プラト!久しぶりね」
 マリィナは窓を開けた。マリィナがまだ幼いころは毎日のように遊んでいたが、近ごろは会う機会ががくっと減ってしまった。
『よう。相変わらず忙しそうだなあ。遊びに来たんだけど出直したほうがいいか?』
「ううん。きりのいいところで終わるわ。ちょっと待っていてもらっていい?」
『じゃあオマエの機織りでも見ておこうかな。よく考えたらちゃんと見たことがなかったしな』
 プラトは『おじゃましまーす』と言いながら部屋に入った。機織り機のそばにある糸が入っている棚に腰かけた。マリィナは再びシャトルを滑らせ始めた。リズミカルな音にプラトはどこかご機嫌で、機織り機の音に合わせて鼻歌を歌い始めた。いつもよりにぎやかな仕事に、マリィナはこのまま機織りを続けたいと思ってしまった。
きりのいいところで手を止めた。マリィナは腰を上げた。
「ごめんね待たせちゃって」
『いやいや、楽しかったぜ!』
「なにして遊ぶ?」
 マリィナは片づけながら尋ねた。プラトは『そうだなあ』と胡坐をかいて腕を組んで考えた。
『そうだっ、久しぶりに秘密基地に行こうぜ』
 マリィナの家は一本の木の中に部屋を作っている。つまり木そのものが家なのだ。その天辺、青い葉や枝が茂っているところにふたりの秘密基地があった。
「いいね。じゃあシリーに見つからないようにしないとね」
 二人は笑いあった。こっそりと部屋を出て階段を上がり、マリィナの部屋へとダッシュした。
『マリィナの部屋も久々だなあ。随分雰囲気が変わったなあ』
 プラトはぐるりと部屋を見回した。中央には青いじゅうたんの上に低い木のテーブルとクッションがある。右側にはマリィナがこれまでもらったものや気に入った置物を飾っている棚があり、真正面にある窓に足を向ける形で壁際にベッドが置かれていた。本棚も左奥にある。両側の壁それぞれにタペストリーが、合わせて三枚飾られている。そのうちの右側の一枚の前でプラトは立ちどまった。
『なあ、これオマエが織ったのか?』
 新緑色の枠の中に赤、黄色、青の花やピクシー、金髪の乙女が描かれている。ほかにも青い小鳥が織られていた。花や小鳥に囲まれているピクシーと乙女は向かい合って笑っているようにも見えた。
「うん。タペストリーは布を織るときに比べて手間が多いから大変だったけど、楽しかったよ」
『なんだかオイラたちみたいだな』
 マリィナは自分が織ったタペストリーを見て当時のことを思い出した。
「あ、本当だ。言われてみればそうかも。そういえばこれを作り始めた前後って、あんまりプラトと遊べなかったときだったかな」
『なんだよお、オイラと遊べなくって寂しかったのか?』
 プラトはマリィナをからかうように言った。しかしマリィナは「ふふ、そうかもね」と素直に頷いた。
 マリィナは窓を開けた。すぐ手が届くところに縄ばしごがあり、それに手を伸ばして順調に上がった。プラトはマリィナに合わせて飛んだ。
 木の天辺の、外側から見えない位置にその秘密基地はある。プラトが魔法で一部の枝を増やし編んで作られたこの小屋は外からでは見えない。出入り口は古くなったシーツを扉の代わりにしているのですぐに中に入ることができる。マリィナは揺れる縄ばしごに怯えることなく登りきった。
「はあーっ、着いたあ」
『お疲れ。いやあそのまんまだなあ』
 お尻が痛くならないように持ち込まれたマリィナ用のクッションに、プラトの昼寝用のベッド。数冊の本、羽ペンとインク。置かれているものはプラトの記憶のままだが埃は被っていなかった。マリィナが定期的に手入れをしているからだ。
 二人は自然と床に並んで寝転んだ。屋根の葉から心地よい風が吹き込む。
『気持ちいいなあ』
「そうだねえ」
 もう一度さあっと風が吹いた。穏やかな空気が流れる中プラトが口を開いた。
『なあマリィナ』
「うん?」
『オイラ、人間界に行ってこようと思う。しばらく帰らないつもりさ』
「えっ?」
 マリィナははじかれるように体を起こした。プラトは寝転がったまま話を続けた。
『とは言ってもここは人間界よりも時間の進みが遅いから、大した期間にはならないと思うけどな』
「なんで急に?ここが嫌になったの?」
『そうじゃないさ。ただ……ちょっと心配なやつがいるんだ』
「心配なやつ?」
『ああ。人間の男の子なんだけど、病気がちでずっとベッドで寝てるんだ。親も忙しくってあんまり帰ってこないから、家政婦と一緒に住んでる。外で遊んだりできないから友達がいないんだ』
 プラトは起き上がって言葉を続けた。
『でもオイラ思うんだ。きっと外に出てないから、余計に病気が悪化しているんじゃないかって。だったらオイラが友達になろうって。外で遊んで健康になったらそのうちきっと人間の友達もできるだろうさ』
「いつ帰ってくるの?」
『さあなあ』
 マリィナの目には涙がうっすらと浮かんでいた。
「やだよ、会えなくなるなんて。やだやだやだ」
 マリィナは目にうっすらと涙を浮かべていた。プラトはやっぱりなといった顔で、カゲロウのような羽を羽ばたかせマリィナの頭を撫でた。
『マリィナ、オマエは誰かと別れるなんてことなかったもんなあ。でもオイラだって寂しくないわけじゃないんだぜ?だからさ、こんなの持ってきたんだ』
 そう言ってプラトはポケットからあるものをとり出した。マリィナの小指の爪より小さかったそれは次第に大きくなった。正体は二つの指輪だった。銀色に輝き、小さなエメラルドやマラカイト、夜空のような紺色のソーダライトで小さな花をいくつも咲かせて、蔦のような模様が彫られている。もう一つは木製で蔦の模様が彫られているだけのシンプルなものだった。
『チェンジリングしようぜ』
 チェンジリング。このインナップヒルで古くから伝わる魔法である。誰もいないところで縁が切れてほしくない相手と指輪を交換する儀式を行い、指輪は恋人なら左の薬指に友人ならば左の中指につける。
「でも、あたし魔法使えないし……」
『オイラが使えるから大丈夫さ。オイラたちは離れていても絶対にまた会える。きっと何度でも。な?』
「……うん」
 マリィナは指で涙を拭った。プラトはマリィナの微笑みを見ると、チェンジリングの準備を始めた。木製の指輪をマリィナに手のひらに乗せるように言った。指輪を見てマリィナは残念そうに言った。
「あたしがこっちなの?」
『あのなあ、結局交換するんだぜ?だったら自分の好みのものは先に相手に渡したほうがいいだろ』
「あ。そっか」
『やり方知ってるか?』
「うん。聞いたことある」
 マリィナの返事を聞くとプラトは小さな花の指輪に触れた。するとどんどん縮んでいき、ちゃんとプラトの手のひらに収まった。
『じゃあ、せーので同時に呪文を唱えるぞ』
 マリィナは頷いた。プラトは一息ついてから『せーの』と合図を出した。
「『指輪よ。継ぎ目のない輪よ。我々の縁を繋げ続けよ』」
 すると二つの指輪は光をまとい、やがて息を吐き出すようにゆっくり消えた。プラトは持っていた小さな花の指輪をマリィナに差し出した。マリィナはそれを受けとり、今度は木製の指輪をプラトに渡した。それぞれ指輪を受けとった二人は左の中指にはめた。一瞬光の糸が指輪同士を繋いだがすぐに見えなくなってしまった。
『これでオイラたちはまた会える』
「うん。ずっと友達でいられるんだね」
『ああ。だが言っておくけど会えなくなったって友達であることには変わりないんだからな。その辺ちゃあんと頭に入れておけよ?』
「うんっ」
 マリィナは左手を見た。指輪は静かに銀色に光っていた。同じように自身の指輪を見ながらプラトは言った。
『それにしてもチェンジリングって、オマエと同じだよなあ。意味は違うけど』
「……え?どういうこと?」
『なんだオマエ知らなかったのか?』
 プラトは目を丸くした。
『オマエはチェンジリング……取り換え子なんだよ』
「取り換え子?」
『ああ。オマエはここで生まれたんじゃなくって、人間界で赤ん坊の時にゴブリンたちが連れてきたんだよ。オマエの親に連れてきたのがバレないように丸太を置いて魔法をかけてな』
 マリィナの心臓はバクバクと激しく音を立てていた。無意識に服の左胸を押さえるように握りしめていた。
「え……じゃ、じゃああたしって……人間なの?」
『ああ。そうだぜ』
 マリィナに頭の後ろから叩かれたような衝撃が走った。プラトの言ったことが信じられなかった。けれど自分が妖精ではないと、人間であるとすべての違和感がなくなるのだ。
『お、おい、マリィナ?大丈夫か?』
「え……あ、だ、大丈夫」
 プラトが心配そうにマリィナの顔を覗き込んでいた。マリィナは無理やり笑顔を作ってプラトに尋ねた。
「い、いつ人間界に行くの?」
『あー、実は今から行こうかなって思ってんだ』
「そ、そうなんだ……」
 そのとき窓が開く音がして、シリーがマリィナの名を呼んだ。どうやらさっきから探していたようだ。
『おい、マリィナ。シリーも探してるから降りようぜ』
「う、うん……」
 マリィナはなんとか立ち上がり縄ばしごを伝って家の中に入った。縄ばしごの修理がいることなどすっかり頭から吹き飛んでいた。